66 「連鎖」 一 序章

4月10日から、なんとなく書き始めた短編小説「連鎖」ですが修正、加筆をし完結させましたので是非読んで何を感じたか感想をコメント欄に残して頂けると有り難いです。脚本らしくなった所もありますが。評判がよければ第二段。木崎、梶原、ほか新たなキャラクターも加え世界に飛び出し活躍する姿を小説に書こうかな、などとも考えています。今はサッカーの短編小説を書こうと思案をめぐらしてる最中です。出来上がり次第UPしていきますのでしばらくお待ちください。

文章足らずの部分も有りますが、それでは架空の物語ミステリー小説「連鎖」をお楽しみ下さい。
※NEXTページに移った際、サイドバーが重いらしく少々時間が掛かるみたいですのでご了承下さい。


主な登場人物
リアルテレビプロデューサー  木崎(きざき)修(しゅう)吾(ご)  41歳
東央新聞(地方新聞)記者   梶原(かじわら)有我(ゆうが)  41歳
英知新聞 部長         宮部雅之  52歳
英知新聞 経済部所属記者  藤巻総司  29歳
2ちゃんねる投稿者       佐山浩二  21歳
                   安西真   32歳
                   坂本ゆみ  19歳
リアルテレビ局長        山崎雄大  65歳
木崎修吾の母          木崎優子  34歳
テレビ局スタッフ アシスタント 山田秀雄  22歳
カメラマン             高橋正哉  33歳
音声                西村慶一  27歳
政治家(国土交通大臣)    大木龍造  68歳
地震研究所所員         大貫信隆  45歳
メイド喫茶店員          水谷みこと 21歳
天才プログラマー        小塚充   26歳
リアルラジオプロデューサー  辻 邦之  43歳



一序章

東京では肌寒く感じる季節を通り過ぎ、人々の気持ちを高揚させる桜の花がひとりひとりの人生の節目を見届けるかのように満開に咲き誇った。しかし、花の輝く日々は儚く短い。そんな花びらもひらひらと地上に舞い落ち地面はうっすらと花(はな)絨毯(じゅうたん)を敷き詰めていた。まだ木々(きぎ)に残存する花一輪一輪を世界を浄化するかのように夜空の月が照らし出す。

「カンパーイ」
今日は新入社員の歓迎会という事もあって久しぶりの飲み会である。店内はサラリーマンや学生がごった返し、笑い声、話し声、いろんな声が雑多に飛び交い賑わいを見せていた。

「あっオネェさーん、こっちビール追加」
藤巻は新入社員の心の不安を取り除こうと自分の経験談を交え、気遣いを見せながらも仕事の話をしていた。そんな行動を見た上司の宮部は誰もが通る道で教えるべきものではない、自分で習得するものだと言わんばかりに会話に割って入る
「おい、藤巻、飲んでる席で仕事の話はないだろ」
「いやぁ、そう言われても宮部部長、新入社員のみんなには頑張ってもらわないと」
「まぁ、だけどお前も先輩の姿を見て独自の努力でここまでになれたんだから」そう諭(さと)すと
「取り合えず飲め飲め、明日から頑張って貰おうやないか」
そんな会話をしながらも酒が進んでいく

そして緊張気味だった新入社員達も酒の力を借りてではあるが会話が盛り上がる輪の中に打ち解け、時間もあっという間に過ぎていった
終電の時間が迫り、新入社員たちは頃合いを見計らうと
「お先に失礼しまーす」「お先に失礼しまーす」
笑顔で会釈しながらぞろぞろと席を立つ
宮部もほろ酔い状態ではあったが
「おうそうか、未来の星達よ、明日から頼むよー」
などと陽気に振舞い、見送った

「おい、藤巻、みんな帰えっちまったぞ俺たちも帰るぞ」
「んっはぁーい」
返事もかろうじて出来るといった具合に藤巻は久しぶりに流し入れた酒に酔い潰れテーブルに伏せていた。
「何でお前が先に酔い潰れるんだよ。上司を解放するのが、 お前の役目だろ」
そんな事を言うのも宮部が藤巻のこんな姿を見たのは初めてで藤巻は連夜の徹夜続きで疲労が蓄積し、見ての有様だった
「まぁ、たまにはいいか。ストレスも溜まっているだろうからな」
勘定を済ませた宮部は藤巻の腕を抱えると
「しっかりしろよ。おい」と正気を促し外に出る
目の前にはネオンが皓(こう)皓(こう)と灯り帰宅を急ぐ人、梯子(はしご)する人、種種様々な人達が行き交い、路上は昼の顔とはまた別の一面を見せていた。そんな中、宮部は、目の前を通り過ぎようとした一台のタクシーを慌てて止める。キィッー

「すいません、豊洲までお願いします。おい、藤巻、後はちゃんと案内して帰れよ、じゃぁ運転手さんお願いします。」

初老の運転手は慌てて止めた事と泥酔の客だった事も有り、ぶっきらぼうに
「はい」と返事をし車を発進させた


背もたれからずれ落ちていく体、息苦しいのか唸る藤巻
「んんっー」
「すいません。お客さん、お客さん、この道は?」

夢の中を彷徨(さまよ)いながらも、ずれ落ちた体を起こすと徐々にではあるが現実に戻り、周りを見渡すと微かに反応する脳が対応した。
「次の信号を左で次の次の信号を右に行った500m先で止めて下
さい。」
口も少しろれつがまわっていない状態で車を降りた藤巻は、 千鳥足で家路に着くなり住み慣れた玄関の明かりを点灯し靴を脱ぎ捨てるとすぐさま、キッチンに向かい水道の蛇口をひねった。ジャー、勢い良く出た水は一瞬にしてグラスいっぱいに溢れ、その水で酒による喉の渇きと眠気を振り払うように一気に飲みほし、その後お気に入りのデスクチェアーにドンッと腰掛け、一息ついた。

顔を片手で拭く仕草をしながら「あー効くなー久しぶりの酒は」と呟きもう片方の手はパソコンの電源へ手が伸びる。ぐるぐる回る脳を抑止させ、そのパソコンで日課となっているメールをチェックしその後ニュースに目を通す。明らかに霞んで見える目を擦りながら画面を見直すと、そこには画面から飛び出さんとばかりに地震、津波予想なるものがドーンと目に飛び込んで来た
「何!2時間後に関東近県で大規模地震発生の可能性あり」
何かの間違いだろ今の地震検知能力で2時間後の地震検知など無理なはずだ。酔いと眠気で頭が錯乱する。

英知新聞経済部に在籍している藤巻は会社ホームページアクセスアップに貢献すべくブログを立ち上げていた。

そして、藤巻は酔いと眠気の影響もあり現実なのか?夢なのか?思考不安定な状態に陥り新聞記者であるという職業の社会的責任を忘れ、多くの人々に知らせなければという思いで自信のブログに指が伸び、キーボードをひとつずつ叩いていく2JIK・・・
「2時間後に関東近県で大地震の可能性大!」と自身のブログに文字を打ち込み、そして、脳と体が絶えかねたように机に伏し、誰かが誘い込んでいるかのようにまた深い眠りの中へ吸い込まれていった

部屋はパソコン画面の明かりと玄関のわずかな光がぼんやりと点り(ともり)、魔法の箱とも言えるパソコン画面の右隅に12時55分という時間を告げ、2時間後の地震のカウントダウンを開始した

その藤巻のブログは新聞記者であるが故に信頼度が高く、読み易さも加わり、1日のアクセス数が1万件もあった。これが大事件に導く序章へと変って行く

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65 「連鎖」 二 拡散

二 拡散  

藤巻ブログの大ファンだった一人の学生がこの記事に目を通す
「おっ藤巻さん更新してる」
その佐山が在住していたのが神奈川県だった事もありすぐさま目に止まる
「えっ!大地震発生?それも関東近県、神奈川も含まれてるけど」

待てよ今日は4月1日(エイプリルフール)じゃぁないよな。もしそうだとしても、もっとシャレの効いた冗談をするだろ。でも新聞記者である藤巻さんが掲載しているという事は信憑性高いと判断せざるを得ないし、と悩みに悩んだあげく何を思ったのか佐山は掲示板最大の2ちんねるに書き込みをする

佐山は藤巻ブログの重要性を感じ冷静に凝視していた。だからこそ掲載時間を正確に記憶していた事もあり
「2時間後に関東近県で大地震の可能性大!正確に言うと1時間 55分後かな」と2ちゃんねるに書き込んだ
すると日本最大の掲示板というだけあって数秒も経たずに入場者が訪れる
「おいおい、それ、どこから仕入れた情報だよ?」
32歳会社員 安西
「新聞記者のブログからだけど」 佐山  
「新聞記者?」 安西
その後も興味津々の話題に続々と増殖する入場者。 
「私も見たよ。あのブログ、読みやすいし解りやすいんだよね」
19歳フリーター ゆみ
「地震の揺れが起きてからの検知なら解るけど、2時間後に起きる地震の予知なんて出来るのか?」  安西
「何と言っても経済部の新聞記者ですよ。新しい地震検知機が開発されて、 それに伴っての情報じゃぁないんですか。」  佐山
「きっとそうですよ。経済部の記者ですもん」  ゆみ
「そうかなー、もしそうだとしたらこんな事していられないぞ。少しでも多くの人に知らせなければ大変な被害が出てしまう。俺達に
出来る事は・・・」  安西
「テレビ局に電話して緊急テロップ流して貰えばいいじゃん」ゆみ
「信じてくれないでしょう。僕達の言う事なんて」  佐山
「そうだな、ネットでとにかく広めればマスメディアでも取り上げてくれるかも。多くのブロガーや見てくれた人に掲示板に掲載して貰おう。」  安西

そして、どこの者とも解らない面識もない者達が藤巻のブログを見、2ちゃんねるを見、ブログや掲示板に「1時間55分後に関東近県で大地震の可能性大!」の言葉を掲載するや、あっという間にネット上へ強力なウィルスが蔓延するように広がっていく。日本人の特性ともいうべきか集団からはずれるのを好まない民族性からか、冷静さの欠如か、掲載時間が違うにも関わらず総てといっていいほど1時間55分後という時間が躍った。そして、深夜1時にも関わらず膨大なアクセス数によってサーバーがダウンし、 アクシデントにより2ちゃんねるに寄せられていた総ての会話が何かを予兆するかのように消滅してしまう。

「どうしたんだ」
「サーバーがダウンした模様です」
「原因は?」
「一番に考えられるのは多重アクセスによりサーバーに負荷が掛かりプロセスダウンしたか?外部からの攻撃ではないかと思われます」
「緊急措置を講じないと」
「はい、早急に対応します」

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64 「連鎖」 三 疑惑

三 疑惑

リアルテレビのニュース担当木崎が特番の為の資料集めをパソコンでしていた。
「どれどれ次はこれか?」
クリックをすると次から次へと開くサイトには関東近県、大地震、関東近県、大地震の氾濫する文字が躍り連続的に視覚へ入り込んでくる。
「何だよ、コレ!」
最初は悪戯の類の物だろうと思っていたがあまりの掲載量の多さに不安を感じた木崎は、周りにいたスタッフを呼び
「おい、気象庁に確認、それと他の局で地震の緊急避難テロップを流している所がないか?調べろよ。ついでに新聞社、ラジオ、官邸だ」
情報の出所はどこなんだ?一番考えられるのは信憑性の高い新聞系のサイトだな。でも、これだけ広がっているという事はガセの可能性は低いという事か?でも2時間後の地震予知?脳が今まで以上に活発に動き出し疑惑がつきまとう情報の答えを導き出そうとする。
情報の確認を終えたスタッフが駆け寄って来る。
「木崎さん、気象庁は何ら情報を出していません、それとどこの局も緊急避難テロップ打ってません」
「んー」
両手で頭を抱えながら、そのまま手を振り下ろしデスクを叩いた
バーンッ
「何だよ、コレ」
「もし、情報が本当だとするなら被害を少なくするか?拡大するかは俺達の働きに懸かってんぞ」
声高らかにスタッフに発破をかけると、ただならぬ木崎の姿にスタッフ達の視線が集中した

そんな折、官邸の記者会見場が揺れ出し、マスコミの動きを察知した秘書が大臣へ連絡を取っていた。
「もしもし、そんなに急がねばならない事態なのかね」
「いいえ、大した事はないと思われますが今まで不祥事続きですから迅速に手を打った方が良(よ)いかと思いましたので」
「おう、そうか」
公用車の後部座席で携帯電話を片手に貫禄たっぷりに会話する政治家、大木龍造の姿があった。眼光鋭く深く刻まれた眉間の皺(しわ)が長年(ながねん)の政治家生活を伺えさせた

そしてスタジオ局内でも微量ではあるが揺れを感じる ユラユラ、ガタガタ、照明器具やスタジオ内にあった器具が微かではあるが揺れ情報に信憑性を増していく

「おい、何だ。地震か?」
「再度、問い合わせろ」  

気象庁設置の地震計は反応を見せなかった
地震計は一本の糸の先に錘(おもり)を付け、その錘によって振動を計測する振り子の原理を用いていた。しかし、じわじわと進むゆっくりとした地面の動きを検出する事は難しく地面の動きを記録する万能な道具ではなかった。この時の地震の地面もゆっくりとした動きだった。

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63 「連鎖」 四 決断

四 決断
 
脳は貪欲に思考を続ける。そして木崎は決断する

「もしもし局長ですか?今の揺れを感じましたか」
眠る前に読書をしていたリアルテレビ局長の山崎
「木崎君、こんな夜中に地震を心配して電話してきた訳じゃぁな
いんだろ。よっぽどの事情のようだな」
「はい、ネットに1時間55分後に関東近県で大地震の可能性大の文字がどこかしこに踊っています。裏を取っているのですが時間がかかりそうなんです。関東7都県だけでもテロップを流さないと大変な事態が起こり兼ねないです」
「木崎君、冷静に考えないといけない。私達、報道する立場の人間が海とも山とも解らない情報をテレビで放送する事は決して、してはならない事だ。それと夜中の1時を過ぎている。今どれだけの人がテレビを見ている」
「しかし、局長、人の命を助ける報道も必要なのではないですか。
それがもしガセだとしても僕は間違った報道だとは思いません。
少なくとも人の命を救う正義の報道だと思います。局長、必ず国民
は解ってくれるはずです。お願いします」
「木崎、責任は誰が取る。局長である私に総て降りかかって来るん
だぞ。絶対、裏が取れない限り、命を助けようとする報道であって
も、それは報道する側の立場がやってはいけない事だ。解ったな木崎」
「局長」    

ツーツーツー 無残にも携帯電話が切れた


木崎は自分のデスクに足を向け歩き出した。背中が物悲しく、それでいて何かを主張していた。デスクに着くとおもむろにペンを取り出し文字を書き始める。この会社の報道畑で19年間働いてきましたが今回だけは、どうしても正義を貫きたいのです。私は報道マンの前に、地球の中にいかされて生きている、ちっぽけな人間です。その人間が、多くの人々がこれから 起きるかもしれない最悪の事態から逃れる為に手を貸す事が出来るのであれば喜んで貸したいのです。山崎局長、私は職を辞して正義を貫きます。デスクの上の紙には、そんな文字が記されていた。


もう、すでに大地震までの時間は1時間30分に迫る

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62 「連鎖」 五 過去

五 過去

木崎はリアルテレビに残り、地位や名誉を手にする事も出来た。
しかし、茨の道へ足を踏み出した。そこには、拭えない母への想いが心底に沈殿していたからこそだった

空一面が青一色に広がり太陽が眩しく感じる10歳のある日の午後だった。なぜか、その日だけは友達の遊びの誘いもなく自宅でテレビを見ていた木崎に、「行って来るからね、ちゃんと留守番しとくんだよ」と言い、買い物に出掛けた母親を、木崎はずっと待っていたがいつも優しく接してくれる母親は帰ってくる事はなかった。母親は指名手配犯の連続殺傷事件に巻き込まれ大勢の人が逃げ惑う中、心臓に持病を抱えていた母は逃げる途中、心臓発作をお越し、帰らぬ人となってしまった。連続殺傷事件が母の病気を誘発したといえる「どうして、どうして・・・」そんな言葉が木崎の頭を支配し現実から逃れ、ずっと思い出と一緒にいたかった。しかし、現実世界は待ってはくれず、木崎家の生活を一変させ木崎修吾は逞しくならざるを得なかった。

それから12年後、木崎は真実を伝える仕事を選択しリアルテレビに入社する事を決意する。後(のち)に連続殺傷事件を担当していた現局長に、こんな話を聞いていた。「殺傷事件が起きる2時間前に不審人物が徘徊していたという情報は入っていたが情報が不確実な為、住民により不安を与えてしまうとの大半の意見でテレビ放送は見送った」と

木崎は、報道規制のかけられていない状況下で、なぜ、報道しなかったんだ。もし放送されていたなら母は買い物に出掛け命を落とすまでには到っていなかったのではないか?と悔やむと共に報道マンと一人の人間としての狭間を揺れ動き、心の奥にっずっとしまい込んできた。

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61 「連鎖」 六 開放

六 開放

そして31年間、心に沈殿していた想いを大勢の人の命を救う為だと今、解き放つ。

リアルテレビの通常番組が突如ブルーバックへ変り、こんな文字が躍った。1時間30分後に関東近県で大地震の可能性が有ります。しかし、この情報はネットで氾濫し現在、出所と確実な情報で有るかの調査中であります。もし、この情報が虚偽のものだとしても他県へ避難する時間を考慮して放送に踏み切りました。リアルテレビは、この件に関しては一切関与しておらずプロデューサーである木崎が総ての責任を負います。と静止画面で放送され、その数秒後に木崎本人の上半身が写し出され徐々に顔へとクローズアップされていった
「プロデューサーの木崎です。今、全力で情報が正確なものか調査しています。この情報を知らず個々の考えが反映されないまま人生を左右されてしまうのは本位ではないのではと考え、報道する事に踏み切りました。是非、個人の人生を、今住んでいる場所で地震と戦うのか?他県へ移動し地震を避けるのか?或いは情報を無視してしまうのか?この1時間30分の内に人生を考え、自分にとって最良の行動を起こしてください。」
とメッセージを送った。そして、テレビ放送は文字が躍る静止画面へと戻る。木崎は時間を正確に把握していなかったが、あえて見切り発車で区切りのいい時限(じげん)、1時間30分という時間を示した。そこには何かしらの考えがあったからだった

すると、その放送を見逃さなかった他局は一斉にリアルテレビが、このような放送をしているという趣旨の放送を始める、責任逃れとリアルテレビを介して地震の情報を国民に知って貰う苦肉の策を取り出した。
「今、情報が入りましてお伝えします。民放テレビ大手のリアルテレビが1時間30分後に関東近県で大地震の可能性があると緊急報道をしております」

「おい、俺達も動き出さないと乗り遅れるぞ」
続々と他局のスタッフ連中もハイエナのごとく舞い込んで来た餌に跳び付いていった

連鎖が連鎖へと蠢き(うごめき)出していた。古びたビルの一室では外界からのものを避けるように腕組みをし、そのテレビ放送を見ながら二ヤッと不適な笑みを浮かべる人物の黒い影があった。

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60 「連鎖」 七 追跡・良友

七 追跡・良友

木崎は情報の出所を突き止めるべく携帯電話とパソコンを手にしスタッフ3人と中継車に乗り込み車を走らせた。その中継車は運転座席裏にモニターが何台も並び、その前にスイッチャー卓、両左右には音声、映像編集する機器などが並列し最新の設備を備えた大規模なものであった。
そして、その中で木崎は早速ある人物に電話をし自らが追跡に乗り出す。

電話の相手は高校時代の同級生、梶原という人物で梶原は高校卒業後、この時代では、珍しくすぐに就職に就く事をせずアルバイトをしながらフリーライターまがいの仕事をしていたが現在は中途採用で地方新聞の記者になっていた。
木崎が高校時代から一目置く、変り者でお笑いをこよなく愛し、常に人とは違う考え方を持ち、我を行く人物である。

防衛省のイージス艦と民間船との衝突事故の取材からの帰宅途中。車の中では「グゥーグゥーグゥーゴォー」ラジオからエド・は〇みのギャグが流れ、大笑いをしていた梶原。
「やっぱエド・は〇みおもしれぇーよなー、仕事の事を忘れるのは笑うが一番だよな」と一人言を発していた。
その時、ポケットに入れていた携帯電話が突如ブルッブルッと動き出し、体が反応するや即座に車を路肩に止めた。そして携帯電話に出る。 
「カミングー」
携帯を耳に当てていた木崎は、それを聞いた瞬間張り詰めていた糸が緩み、ちょっと笑みを零(こぼ)しながらあえて聞いた。 
「木崎だけどカミングーって何だよ」
「お前も知ってるだろ、メディアを席捲(せっけん)しようとしているエド・は〇みだよ。今、ラジオで流れててさ。それはさて置きどうした?」
「地震の事知ってるか?」
「あーラジオで不確かではあるがと前置きをした上で速報が流れてクライイングー」 
木崎は繰り返すギャグに拍子抜けをする
「ネタ元を追っている、力を貸してくれ」
「高くつくゾーウ」
今度はジェスチャー付きのギャグを繰り出す
木崎はジェスチャー付きであろう想像姿と連発されるギャグに呆れ
「お前のネタを聞いている余裕はあんまりないんだよ、協力して
くれるのか」
「そう怒るなよ作は木を切るヘイ・ヘイホー」
木崎は梶原のギャグが終わる前に被るように発した
「お前なー」

乗って来た会話の最後には、まるで芸人のボケと突っ込みの役割が出来ていた。
「解ったって、お笑いライブのチケットで手を打つよ、それで何をすればいいんだ」
「地震発生の時間まで正確に地震予知、検知出来る機器が開発されているのかどうか?調べて欲しい、お前の得意とする所だろ」
「木崎、お前は?」
「俺はパソコンに配信したネタ元を辿るよ」
「最後にひとつ言い忘れた、時間を共有しておこう。今1時35分」

俺が確か最初にパソコンに目を通したのは?

テレビ局内で作業していた時の微かに残る時間の記憶を辿っていく。
パソコンの右隅に表示されている時間の記憶
「んっー」   1時、1時・・・
「そうだ、1時05分だ」
前後10分の誤差だと考えるなら
「地震発生時間は2時50分から3時の間だと思う。頭に入れといてくれ」  
「2時50分から3時の間だな解った」
念を押すように時間を繰り返し確認をした。
「よし、じゃぁ後で」
最後に放った言葉は重なり合い、良友、報道マンとしての血が騒いでいた。そして、子供時代のワクワク感、冒険心みたいなものも湧き出ていた

カチッ、カチッ、路肩に止めた梶原の車のファサードランプが消え方向指示ランプに変わると車は夜の闇と地震という不安を振り払うかのように走り出した。


梶原との会話を終えると携帯電話を置き、インターネットにアクセス中のパソコン画面に目をやる木崎。
ネタ元の情報と正確な地震発生時間を突き止めるべく「地震」というキーワードでブログ検索をしていく。そして、ある事に気づき驚愕してしまう。
「1時間55分後」の時間が躍っているべきはずのブログがさまざまな時間に変更されていた。1時間10分後、30分後、1時間40分後、50分後、1時間20分後、・・・といった具合だった。
ブログ作成者にネタ元の情報を得ようとコメントを残し、送信しようと何度も試みるが送信することが出来ない。クリックを繰り返すが画面上に反応がない。 あまり、コンピュータに詳しくないとはいえ、おかしい何かが起きている。と察知せざるを得なかった

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59 「連鎖」 八 雲行

八 雲行

一方の梶原は木崎に頼まれた検知器の件で以前、記事にも掲載し、ある程度、場所の認識を持っていた地震予知研究所に深夜1時35分という時間ではあったが誰かしらいる事を祈り直接、向かっていた。
暗がりの中に街灯が点々と灯り中規模の古びれたビルと住宅が混在する本郷の街の中に10階前後の真新しいビルが自己主張するかのごとく建っていた。地震予知研究所という名称がステンレス製の箱文字でシャープに浮かび上がり一際目立つ。当然のごとく正面入り口は閉まっているだろうとの予測からビルの脇にまわり込み非常口を探し出す。そして車をすぐ横に着けた
「よしっ、頼む誰か居てくれ」
チャイムを軽く2度ほど押してみる。すると少し時間を置いてから
「はい」
との返事が返って来た。警備員でない事を願い、インターフォン越しに
「こんな夜分にすいません。東央新聞の梶原と申しますが、ここ数時間以内にテレビなどは御覧になられていましたか?もしくはラジオを」
「いいえ、何ですか?」
「関東近県で大地震の可能性があると情報が流れまして、伺いたい
事がいくつかあるのですが」
「今、開けますので少々お待ちください」
カチャ 開錠する音が聞こえドアが開いた。
同年代もしくは少々上であろうと思われる背の高い細身の男性が白衣を着て現れた。顔には不精髭が伸び疲労感が漂う表情。おそらく研究者であろうと推測は出来たが地震の事を聞くまではまだ安心出来ないと思っていた
「こちらへどうぞ」
奥まった来客用の部屋へ案内してくれ、すぐさま部屋を後にしようとしたので、すかさず
「緊急です」と口を開く
「えっ」と驚きの様子を見せながらも振り返り
「私で解る事なら答えましょう。どの様な事でしょうか?」
「単刀直入に伺います。時間まで正確に地震予知出来る機器 が今、世界に存在しているのかどうか?」
研究者の大貫(おおぬき)なる人物は何を唐突にと思わせる様な顔をしながらも
「地震予知に関しては地震大国でもある日本が群を抜いています。しかし、このような時代です。どこでどの様な機器が開発されていてもおかしくないですが、私の知る範囲では学会などでも発表されておりませんし99パーセント近くないと思われます」
それを聞いた梶原は表情も変えず、連続的に問いかける
「1時間後に関東近県で大地震が起きる可能性はありますか?」
研究者の大貫は困惑の表情に変わり
「地震には幾つかの要素があります。プレートの歪みによって起こる地震や火山活動によって起こる地震、人為的に起こる地震など幾つもあります。それに日本付近には4つものプレートが衝突し2千以上の活断層が調査段階とはいえあるとされています、世界で起きている地震の割合で行けば1割が日本近辺で起き長年、研究を続けている私でさえ今、判断する事はとても難しいんです。それにも増して1時間後の地震など100パーセント起きないと断言する事など到底出来ないです」
予測はしていたが案の定(あんのじょう)100パーセント安心出来る言葉など返って来なかった、その言葉を聞いた梶原はこれ以上の話は望めないと研究所をあとにする。


梶原は車に戻り先ほどの会話を振り返った。これで検知機がない事は確認出来たがまだ油断は出来ない極秘裏に開発されている可能性も拭えない。そして研究者の3点挙げた地震の要素の内「人為的に起こる地震」と言った言葉が妙に頭の片隅に残り不安が募(つの)った

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58 「連鎖」 九 経験

九 経験

スタッフはカチッカチッと何度もクリックを繰り返す木崎の姿を見て
「どうしたんですか?故障ですか?」
「情報を収集しようと、総てのブログに何度もコメント送信を試みているのだが拒否する様に設定されているようだ、何かおかしい」
「以前、取材した大企業のエンジニアに頼んで見たらどうでしょう?解決の糸口が見つかるかもしれませんよ」
「大企業のエンジニアか?この時間に俺達に力を貸してくれるか、それに、大企業は下請けに出している所が多いし宛てにならん。
それにも増して今は時間がない」   

時間がないという言葉が緊張感をあおる。そして木崎は八方塞がりで思案を巡らす

「そうだ俺達の主戦場であるテレビを活用して情報を得ようじゃぁないか」
「流石、木崎さん」
スタッフ達は待ってましたと言わんばかりに早速作業に取りかかるその様子を横目に木崎は電話を取り出し、どこかへ電話し出した
「地震の情報は、もう知っているだろ。頼む、系列なんだから何とかラジオからも情報を得られるよう放送してくれないか」そう、懇願していたのは系列ラジオ局リアルラジオのプロデューサー辻だった
「そんなに頼みこまれたら仕方ないな」
系列会社の力関係が反映されたかどうかは定かではないが渋々ラジオ局でも放送を承諾する。木崎は今までの経験を生かさずどこで生かすとの思いから、新聞、テレビ、ラジオ、マスメディアの横の繋がりを最大限活用して情報を収集しようとしテレビ、ラジオには迅速に手を打ち、持ち得ているスキルを発揮し出す。新聞社にも協力要請し街中にビラを配るなどして情報を得ようとのアイデアを持ち得ていたが迫る時間と効率を重要視し諦める。

そして、リアルテレビ、リアルラジオから国民へ向けてこんな2度目のメッセージが放送された。
「ネットが配信元であろう情報を掴みあぐねています。地震の事、情報元の事、何でも結構です。みなさんの持ち得ている情報を寄せて下さい。その情報がひとつの命をも救う情報になり兼ねないのです。宜しくお願いします」
関東7都県の住民の命の安全という責任が重くのしかかり自己責任を全う(まっとう)しようとする木崎の姿があった。あえて、不確かな情報に対してひとつの命をも救うなどの過激な言葉を使い国民の右脳と心に訴えかけ個人個人が持つ情報のアナログ世界とテレビ、ラジオの持つ公共性を融合し無機質な魔法の箱、パソコン世界に打ち勝とうと挑(いど)んだ。

時と共に忙しなく動きだす中、木崎の携帯電話の着信音が鳴る
「木崎か」
「あー」
梶原からの報告の電話ようだった。
「報告がある。検知機の件だが99パーセントないとの返答は貰えた。しかし地震に関しては100パーセント安全であるとの回答は得られなかった。」
その言葉を聞いた木崎は少し落胆の表情を浮かべるが何事もなかったかのように頭を切り替えるべく
「そうか。次いでですまんが秋葉原のメイド喫茶、萌えカフェに向かい、店員の女性からパソコンに詳しいプログラマーの常連客に接触してくれ。詳しいことはラジオから情報を得る事が出来る、後はそこから推察してくれ」
言葉短に電話を切った

木崎は、以前取材で担当が違うにも関わらず担当替えをし、このメイド喫茶の客層について尋ねていた。
「お帰りなさいませご主人さま」
若い女の子がメイド服を着用し首を傾け発する言葉に照れ笑いを浮かべ、いつもの調子が出ずにいた。
政治や事件を扱う木崎には無縁の世界だった
「あのーテレビの取材で伺ったんですけど」
「ハイッご主人さま、聞いております」
「カメラ、音声準備はいいか?」
「はい」
「取材始めます。いつも通りにお願いします」
「こちらはどのようなお客さんが多いですか?」
「そうですねー一般的に言われているお宅の方が多いですけど最近は外人の方や女性の方も気楽に来店してもらってます」
「常連客とかはいらっしゃいますか?」
「ハイッご主人さま、週2日とか3日来る方もいます」
「その中でも印象的な方は?」
「秋葉原っていう土地柄なのかもしれないですけど店内のパソコンが故障して、業者に見て貰ったら何日も掛かるらしくてお客さんに相談したら、その場であっという間に修理してくれたお客さんがいてビックリしました 萌え萌え」
ニュース番組の流行物(はやりもの)というワンコーナーの取材だったが、こんな所であの会話が活きようとは木崎自信も思っていなかった。

用件だけを述べ電話を切られた梶原は
「おいっ おーい」
何だよ。お笑いのチケットだけじゃ割り合わねぇじゃねぇか。それに、こんな時間に開いてんのかよと独り言をする。

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57 「連鎖」 十 不協和音

十 不協和音

テレビ放送やラジオ放送により街は深夜の様相を変えていた。
ピッピッー「早く、前進めよ」怒号が飛び交い、都心、関東近県では車が渋滞し、交通誘導する警察官がそこかしこに現われ、不安げな表情で人々が右往左往する姿が各所で見て取れた。
上空では各局のヘリコプターが飛び交い眠らない町東京どころではない混乱の状況へと変りつつあった。

2001年に気象庁は国土交通省の外局となっていた事もあり国土交通大臣の大木は眉間(みけん)に皺(しわ)を寄せながら顰め(しかめ)っ面(つら)で気象庁責任者に迫る姿があった。 
「これでは記者会見など出来たもんじゃぁない。おいっどうなっているんだ」
「大臣、落ち着いてください我々には全国に約25km間隔に1000ヶ所にも及ぶ強震計による観測網KーNETが構築してありますから大丈夫です」
「そんな事を聞いているのではない結果だよ結果、国民は何がおきているのか知りたがってるんだよ」
「ですから今から地震計の情報を集積しまして発震時刻と震源地を
決定しマグニチュードを算出してますので」
「だから細かい事はどうだっていい、結果が総てだと言ってるだろ」
「ですから・・・」
「何度言ったら解るんだ。もういい後(あと)どれぐらい時間が掛かるのかね」
「えーまぁ」 
気象庁、官邸は、未だに原因が掴めず対策に苦慮する姿が見て取れた

スタッフは情報の受け入れ先を自分達3人の携帯にしていた事も有
り、テレビ、ラジオと放送直後からスタッフの携帯電話が引切り無しに鳴り響き、得た情報を総てメモに残していった。そのメモに木崎は真剣な表情で一つずつ目を通していく

時間との戦い、車外の騒音、疲労の蓄積いろんな事が重なり合い頭を混乱させ冷静さが欠如していく

そんな作業を15分も続けた頃だろうか。愚痴もこぼれ出しスタッフの中の若年者、山田が
「木崎さん、こんな事ずーっと続けるんですか?もう辞めて僕達も非難しましょうよ」
沈黙していた木崎が唇を噛み締めたあと
「もう走り出してんだよ 。ここで止まってしまったら、諦めてしまったら何が生まれる。何が残る。国民は、俺達の事をどう思う。少なくとも俺は自分のやってる事に信念を持って最後までやり切らなければ俺が俺でなくなってしまうんだよ。お前達も諦めて何を得られるっていうんだ悔いだけが残るんじゃぁないのか。これが俺達に与えられた使命じゃぁないのか」
「そんな・・・」
納得がいかない山田をなだめる二人のスタッフ高橋と西村、中継車内に微妙な空気が流れる。そして残りのスタッフ、高橋がこんな場を変える言葉を発する
「最後までやり遂げましょう。やり切った先に何があるか解りませんが今、目の前に自分達にしか出来ない使命があるのだから、みんなで最後まで頑張ってみましょう。」
自分を信じ行動してきた木崎が信頼を置くスタッフに否定されかけ、救われた瞬間だった
「俺も大人げなく声を荒げてしまった。みんなの気持ちを察する事が出来ずすまなかった」
「そんな、いままで一緒にやってきた仲間じゃぁないですか」
4人に微かではあるが笑みが零(こぼ)れた。

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56 「連鎖」  十一 約束

十一 約束

一方の梶原は渋滞に巻き込まれ、ここぞとばかりに車の中で情報を整理する

木崎はパソコンからネタ元をたどっていた。その後、携帯電話でパソコンのプログラマーに接触しラジオから情報を得よと俺に指示を出した
「何だよ相手によっちゃ接触の仕方も変ってくるんだからさ、ちゃんと説明しろよな木崎の野郎、 頭を使わせやがって」
そんな事を考えているとラジオからこんな声が流れ出す
「リアルラジオです。ネットが配信元であろう情報を掴みあぐねています、地震の事、情報元の事、何でも結構です、みなさんの持ち得ている情報を寄せて下さい。」

未だにラジオから情報を集っているという事は、これから接触するプログラマーはネタ元ではないという事になるが。
おそらく木崎の野郎、パソコンには、お手上げで、それで腕利きプログラマーに協力して貰い配信元を特定しろって事か。時間も迫っているのに仲間内に謎解きさせ、それでいてネタ元も俺が探るのか!アイツは何をやってるんだ。

梶原は、法律に反するが取材に間に合わない時に、よく使用していた緊急用の黄色パトランプをトランクから取り出すと車の上部に置いた。90デシベルの甲高い警報音が響き、1分間に270回転する光が暗闇を照らす。捕まるのを覚悟でアクセルを思い切り良く踏み込むとスピードをあげ、渋滞する車の間を縫うように白山通りを駆け抜け秋葉原へと急いだ。

梶原も心の奥では、時間とこの先に起こるかもしれない見えない恐怖と戦っていた。

眼球の奥の網膜が両サイド所々で突出する渋滞の車を捉え頻繁に視神経から大脳へと伝達する。そして運動を司る脳、小脳がハンドルを握る手とアクセル、ブレーキを踏む足に指令を送り脳がずっと絶え間なく動き続けていた。そんな時間もどれぐらい経過したのだろう。メイド喫茶近辺まで来ていた。
T字路の細い道路には縦列駐車する車が何台もあり止める場所がなかったが、ちょうど目的のメイド喫茶の前に止めていた車が見計らったかのように移動した。するとその後方から別の車が駐車しようと迫って来る。梶原はそれを見るやメイド喫茶の正面から突っ込みそうな勢いでスピードをグーンとあげるとサイドブレーキを一気に力強く引いた。 キィッー するとタイヤが物凄い悲鳴と煙をあげながら車が90度回転し縦列駐車の間にスパッと収まった。
縦列駐車の後方から進行して来た車の運転手はきょとんとした表情で梶原を見ていた
「俺って凄いな」
自画自賛。と共に神経から大量のドーパミンが放出し脳が快感を憶える。そして脳の好循環を生み出していた。
これが梶原の良い所で競争心を煽(あお)られたという事だけではなく苦しみの中に僅(わず)かな喜びを見つけ楽しんでしまう、成績や結果を残すスポーツマンによく見られる似た部分を持っている。誰もが苦しみから逃れたいさぼりたい、その中に楽しみを見つけるからこそ長く続けられる。だからこそ木崎が一目置くのかもしれない

階段を足早に駆け上り、息を切らしながらも同級生なのに人使い荒いよな、あいつテレビ局でこんな人使いしてんのかよ、きっと嫌われるぞ。と中継車内で起きている事態を予測しているかの様な独り言だった。
メイド喫茶の入り口に立ち、
「やっぱり閉店か」
すると、僅(わず)かに光る店内の奥から数人の会話する若い女性の声が微かに聞こえた
その店内では、女性店員がもじもじしながら会話していた。
「地震のこと知ってる?」
「えっ地震?何、初めて聞いた」
「うん、このあと関東近県で大地震が起きるって話。情報が不確からしいんだけど」
「非難したほうがよくない?」
「きっと大丈夫だよ」
「何で?」
「内緒だよ」
「!」

梶原は慌ててドアをノックする コンコン
「すいませーん、東央新聞の梶原と申しますが、大至急お願いしまーす」
どことなしか声が高く、メイド喫茶という未知の場所に気持ちが高ぶっていた。何事が起きたのかと若い女の子が顔を見せるが、閉店時間が過ぎていた事もありジーンズにTシャツのいでたちだった。
「今日はもう御終いですけど」
梶原はメイド服の女の子の姿を予想していただけに、わずかな楽しみを奪われガッカリしたが
「あっ違います。客ではないデスマスク」と両手で顔の頬を引っ張りおどけて見せた。
すると爆笑ではないが
「プッ」
と少し笑ってくれた事で、その場がなごみ会話が梶原のペースになった。
女性は笑みを浮かべながら「あっ何の御用ですか?」
「こちらにパソコンに詳しい常連客が居ると聞いたんで取材をお 願いしたいと思いまして、紹介して頂けませんか?」
と言いながら内ポケットに無造作に入れていた名刺を取り出し手渡した。女性は一瞬名刺に目を落し顔を上げると
「紹介は構いませんけど、こんな時間ですので明日でよろしいですか」
見た目の年齢よりは丁寧な言葉遣いで、メイド喫茶の仕事中はどんな感じなのかと頭の中は想像を掻き立てていたが
「大至急なんです。」と咄嗟(とっさ)に口が動いた
ただ事ではないと察したのか、女性はすぐさま携帯電話を取り出しプログラマーだと思われる人物に連絡を取り事情を話すと、電話を手渡し替わってくれた。
「新聞記者の梶原と申しますが・・・」


プログラマーの小塚なる人物も地震の情報を知っていた事もあり、
梶原は簡単に今までの経緯を話すと「こんな僕でもみんなが知り
たがっている真実を解き明かす一躍を担う事が出来るのであれば」
と心よく協力してくれる事を確約する
そして、ふと腕時計に目がいくと、時間は2時03分を指し木崎と交わした地震までの最短時間2時50分までに47分と迫っていた。
「君達は地震の情報を知ってる?」
「はい、友達から聞いて、この場で友達と一緒に時間を過ごそうと決めました」
「そっか、協力してくれてありがとう、この借りは、どんな形であれ絶対に帰すからこの顔覚えといて」と頬を引っ張っておどけた
47分後に迫る地震など、どこ吹く風で女性は何とも言い難い笑顔を見せた 。彼女の瞳の奥は・・・

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55 「連鎖」 十二 端緒

十二 端緒

中継車内ではまだ携帯電話の着信音が鳴り響き、スタッフが車外の騒音をよそ目に集中しながら作業を黙々と続けていた。

携帯を片手にメモを取るスタッフの一人西村がある事に気づき口を開く
「木崎さん、地震に関わる事かどうか解らないですが、こんな情報が幾つか入っています。」
メモに目を通していた木崎の動作が一瞬止まり西村に視線を送る
「えっ、どんな情報だ」
「都内で、ここ1ヶ月の間に関東水道設備というシルバーの1ボックスカーが頻繁に目撃されていまして、その車から乗降している人物が変な行動をしていたという情報が数件寄せられています」
それを聞いた、別のスタッフ高橋が
「関連しているかどうか解りませんが一軒家にお住まいだという方々から、1時間ぐらい前から蛇口、水周りの向こうでボコボコという水が流動しているような音が聞こえるという情報が数件寄せられています」
木崎はネタ元の情報に気を取られ見落としていた
「どんな行動だ」
「はい、都内各地のマンホールを開(あ)けサッカーボール状の球体を投げ込み、その後、車の後方に積んであったパソコンらしき機器で何かしらの操作をしていたらしいです。」

目を閉じ天を見上げる、都内には400パイという大きさの配水本管が約2千5百km、およそ北海道から沖縄ほどの距離もある水道管網が網の目のように張り巡らされている。枝分かれする小管をあわせると地球半周にも届く長さだ、その光景と不振な動きを見せる人物がひとつひとつの物事が絡み合って鎖のごとく繋がっているのではないかと脳が模索する
ふと1時間以上前に決断を迫った地震は何だったんだと疑問が湧き挙がる(あがる)
「スタジオ内で揺れを感じた地震の震源地は確認出来ているのか?」
するとスタッフの山田はモニターや気象庁への電話での確認をする
「未だ気象庁にての発表はされていない模様です」
すでに1時間は経過しているにも関わらず震源地を特定出来ていないのか?明らかに奇妙な話だ、そう思うとパソコンで東京都内の水道管理局を探し出した
「ここだ。本郷の水道管理局に向かってくれ」
と木崎は中継車を走らせる支持を山田に出した

情報が情報を呼び、点が線に結びつくのか?走り出した車の中では木崎が電話を手にし
「もしもし、リアルテレビの木崎と申しますが、そちらは水道管理局ですか?」
「はい、水道管理局です」
携帯電話の向こうから男性の落ち着き払った声がした
「つかぬ事をお伺いしますが現在、配水、配水管などに問題は生じておりませんか?」
水道管理局の男性は間髪入れず
「一切、何の問題も生じておりません」
最初から質問の内容が解っているかのように即座に答えが返ってきた、なぜだ?疑問を感じざるを得なかった

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54 「連鎖」  十三 接触

十三 接触

メイド喫茶の女性と約束を交わし颯爽と階段駆け下りると、車に乗り込みアクセルを踏み込むブォーン、ドンッ。急いでシフトチェンジした為、後方に駐車してあった車に衝突する。バックミラーでナンバープレートを記憶し、 あとで連絡を取ろうと判断した梶原は苦笑いをみせ「愛嬌、愛嬌」と言葉を連呼しながら今度は確実にシフト変換し、勢いよくアクセルを踏み込みハンドルを切る。キィッー、タイヤとエンジン音を鳴り響かせながら車を手足のように自在に操って見せた。頭に時間がよぎり焦っていたのか、心の中で冷静、冷静、迅速、迅速と小声で呟き自己を落ち着かせる
ラジオでは相変わらず地震の情報を得る放送が繰り返されていたが
チャンネルを変え音楽で気分転換すると無意識に車のスピードがあがる

街は、よりいっそう渋滞がひどくなり出歩く人々が多くなっていた

黄色パトランプを輝かせ警報音を響かせ梶原自身が自己主張しているかのごとく車は秋葉原から片側3車線の昭和通りを通過し東銀座の交差点を左折、晴海通りへ入った所で、渋滞の間をあまりのスピードで駆け抜ける車を発見した警察に後ろを追走される。
「その前の車、停車させなさい」
およそ1kmほど進んだあたりだろうか?覚悟を決め、渋滞の車の狭間に停車させた。すると警察官が足早に歩み寄りコンコンと窓を叩く
「どうしたんですか?」
梶原は冷静を装い
「地震の地盤沈下の影響だと思われるのですがガス管が継ぎ目からはずれ緊急措置が必要です」
あと数km、目的を果たそうと何とかごまかすが
「関東ガスの車ではないようですね」
しまった!車検証の提示など迫られようものなら万事休すだと思いながらも言葉をひねり出す
「緊急で総て出払っていまして、営業用の車で向かっています。これ以上時間が経過するとガス爆発の可能性が有りますので急ぎたいのですが」
「それは緊急の所、すいませんでした」
何とか気付かれる事なく逃れ、悟られないように車を発進させると
「フッー」
と溜息がもれたが曲げられない自己精神で小塚のマンションへ急いだ

数分後、小塚の高級マンションに着くと南西にはレインボーブリッジ、西北には東京タワーとどこにも引けを取らないであろう東京の夜景を横目に真剣な表情で作業にかかる小塚らしき人物の姿があった。

事前に会話した事も有りドアロックは開錠されていた。無造作に部屋へ入るとドアの開閉音と足音が聞こえたのか小塚らしき人物は
「すいません、作業が終わるまでソファで寛(くつろ)いでいて下さい。何かあったら声をかけますから」
それを聞いた梶原は声から小塚だと認識し、頼み込んでお願いしている事を忘れ
「何分、かかるんだ」
「まぁ急いでいるのは解りますが、夜景でも眺めて待っていて下さい」
と、またパソコンの画面を睨みブラインドタッチでの作業が続く
部屋の内部を見渡したあと動き続ける指先に一瞬目が止まり、変な事を想像する。指先を赤く染めると、まるでカニの歩く姿を早送りしているかのように見え滑稽に思えた。そんな想いを巡らせていると
「そのまま聞いてください。検索ではすぐに特定出来ないので、い
くつかのブログに侵入し履歴を辿ってみようと思います。それと2ちゃんねるに何かしら載っているか?梶原さんが来る前から見ていたのですがまったくアクセス出来ない状態になっています。検索サイトにもキャッシュが残っておらず何者かによって引き起こされている可能性が高いのではと推察されます。」
そう言うと、また画面を睨み指の動きが一段と早くなる。屋外の喧騒とは比べものにならないほど室内は静まり返り、そして綺麗な夜景が時を忘れさせる。

ソファに座ると時間を忘れてしまいそうなぐらい時が流れているように感じた。

「解りましたよ。」
脳が切り替わるのに時間を要したが
「おーやったぞ、早く教えろ」
「まぁ、急がないで聞いて下さい。ネタ元は新聞記者経済部の藤巻という方のブログです。」
「それは確かか?」
「はい。間違いないです」
「新聞記者か。広がりを見せたのは当然だな」
「まだ話しは有ります待って下さい。火に油を注いだのは、会話の一部しか解りませんが2ちゃんねるの掲示板の会話だと推測されます。それと藤巻のブログには2点ほど仕掛けがされていました、ひとつめは本人がインターネットにアクセスした際にすぐさま地震の記事が画面に映し出される様に仕込まれ、ふたつめは外部からアクセスをした人が自信のブログに掲載すると地震発生時間が変更されてしまうプログラムが埋め込まれていました。」
「あまりよく解らないがそんな事可能なのか?」
「ひとつめはパソコンに侵入さえ出来れば簡単なことです。ふたつめは厄介ですがキーボードの打ち込み文字を記録変換させる応用プログラムを使用しているものだと思います。それともうひとつ大事な事を忘れていました犯人特定を試みたのですがプロキシサーバーを使用しており犯人特定は現状において、難しいです」
パソコン画面の時間を確認し、さほど経っていない事に驚き
「こんな短時間にそんな事まで解ったのか?」
「はい、普段はメイド喫茶で遊びほうけていますが一旦、脳のスイッチが入ると別人のようになってしまうんですよね。あと、これが2ちゃんねるの会話の一部です。」
と言うと会話の一部が印刷されたA4の紙を梶原に手渡した。

            
その場ですかさず凝視する


1960M9・5「2時間後に関東近県で大地震の可能性大!正確に言うと1時間 55分後かな」
2227    「おいおい、それ、どこから仕入れた情報だよ?」

1960M9・5「新聞記者のブログからだけど」   
2227    「新聞記者?」 
a n g e l 「私も見たよ。あのブログ、読みやすいし解りやすいんだよね」
2227    「地震の揺れが起きてからの検知なら解るけど、2時間後に起きる地震の予知なんて来るのか?」  
1960M9・5「何と言っても経済部の新聞記者ですよ。新しい地震検知機が開発されて、それに伴っての情報じゃぁないんですか。」  
a n g e l 「きっとそうですよ。経済部の記者ですもん」  
2227    「そうかなー、もしそうだとしたらこんな事していられないぞ。少しでも多くの人に知らせなければ大変な被害が出てしまう。俺達に出来る事は・・・」  
a n g e l 「テレビ局に電話して緊急テロップ流して貰えばいいじゃん」
1960M9・5「信じてくれないでしょう。僕達の言う事なんて」  
2227    「そうだな、ネットでとにかく広めればマスメディアでも取り上げてくれるかも。多くのブロガーや見てくれた人に掲示板に掲載して貰おう。」  



「1960M9・5とか2227とかエンジェルって何だ」
「ニックネームみたいなもんです」
「これは話を誘導するように一人で自作自演なんて事も出来るのか?」
「ええ出来ますけどトリップというIDが表示される事があるので、無知な方意外は嘲笑の的になってしまうおそれがあるのでしないと思います。」
「そうか、自作自演でないとすると」
A4の紙を握り直し、じーっと見つめ何度も読み返す

「この2227とエンジェルが気になるなー、どう見てもこの二人が地震情報を拡散しようと会話を誘導しているように思えて仕方がない。小塚はどんな感想を持った?」
「僕もよく2ちゃんねるに立ち寄りますけど何ら普通の会話だと思いましたけど」
「手間をかけてすまんが、2227という数字をパソコンで検索してくれるか」
「はい、いいですけど犯人に結びつくんですか?」
「それは俺にも解らない」
パソコンの前につくと画面を覗き込みながら、気になる項目を当たって行くがなかなかめぼしい情報に行き届かず犯人探しにも先が見えなくなっていく。するとそれを見越したかのようにブルッブルッと携帯電話の着信の合図が
「はい梶原です」
「さきほどは・・・」
メイド喫茶で何分か前に対応してくれた女性の声に、別れたばかりで何の用があるのだろうと困惑しながらも次に発する言葉に耳を傾けた
「すいません、友達の話を聞いて頂けませんか」
深刻さが伺える声で、妙な感覚が駆け巡っていると別の女性に替わったようだった。そこで梶原の中で新聞記者特有の感みたいなものが働く
「もしかすると君がエンジェル?」
突飛(とっぴ)由(よし)もなく問いかけた
「・・・・・」
二人の会話を沈黙が支配していたが何かを振り切るかのように開口一番に女性が
「こんな大事(おおごと)になるとは思っていなっかたし、お兄ちゃんはどうなるの?」
「えっお兄ちゃん」と思いながらもビンゴ!と心の中では叫んでいた。向こうからやって来てくれるとは、自分の推察が正しければ2227がお兄ちゃんでエンジェルが今、電話に出ている女性であろうと思えた
「どうして、掲示板でこんな情報を」
「雀はこうして生活を守るんだってお兄ちゃんが言うから」
「雀、生活?」

この兄妹は両親の離婚が原因で妹が物心つく前に生き別れになり、兄は父親に引き取られ、妹は母親と生活する事となった。兄は父親の仕事もあり祖父母の元で生活を共にし今は兄が祖父母の面倒を見ていた。そしてつい最近、兄は偶然にも立ち寄ったメイド喫茶で妹と再会を果たす

「いらっしゃいませご主人様」
「あれっ、そのネックレス」
胸元に光るネックレスが気になった
涙の雫というネーミングで水が一滴落ちていく様をモチーフにしたデザインのネックレスに見て取れ、これは兄がお別れの時に、涙のつらい別れと再会の涙の意味、家族のいろんな思いの意味を持って、まだ赤ん坊だったエンジェルと母親に小さい頃から貯めたお金で別れの際にプレゼントしたものだった。
「これ、いいでしょう。私がまだ赤ん坊だった頃にお兄ちゃんが私とお母さんにペアでプレゼントしてくれたネックレスで誰よりも心がこもっているプレゼントなんだ」
それを聞いた兄の頬には一滴の涙がこぼれ落ちた
「ゆみ」
「えっ、なんで名前を知ってるの」
「まことだよ。安西(あんざい)真(まこと)、母さんから僕の名前聞いてない?」
最初は何が起きているのかといった状態で言葉にもならず驚いた。そして何十年ぶりかに目の前に兄が
「お兄ちゃん?」
首を傾(かし)げる様にそう聞くゆみに安西は首を縦に振り頷いて見せるとゆみは複雑な心境ながら慈愛の念で人目をはばからず抱きついて涙を流したかった

その後、二人の兄妹は遊んだり、いろんな話をしたりと今までの過去の時間を取り戻そうとばかりに過ごした。そして、二人の心も通いあった頃

「生活を共にしているお爺ちゃんやお婆ちゃんが政治という国家権力を振り回す人間によって困窮し家族も崩壊しようとしている。何とかしたいんだ」
とゆみに切り出す
「うん、家族は大事だもんね、で何を」

そんな日本の国民生活状況はと言うとBLIKS(ブリックス)と呼ばれるブラジル、ロシア、インド、中国の著しい経済発展とアメリカによるサブプライムローンの破綻により世界情勢が変貌するやエネルギーの主となる化石燃料いわゆる原油が高騰したり、その影響と環境の配慮からかバイオエネルギーへの転換で食糧等が高騰し国民生活を圧迫するばかりだった。それにもまして追い討ちをかけるように政治が指導力を発揮する事が出来ず年金の問題や税金に対する法案で国民を第一に考えるべき政治家は党利党略主義で問題案件を政争の具と化し、官僚は官僚で私利私欲に溺れ国民が政治に翻弄(ほんろう)されていた。

「国民が振り回されているように、国家権力を我物顔で振り回す人達に同じ思いをさせたい、そして国民に目を覚まして貰いたいんだ」
「そんな、なんか難しくてわかんないよ」
一枚の紙を取り出すと
「4月4日の深夜1時に2ちゃんねるの掲示板にアクセスして
エンジェルとして参加してくれるだけでいいんだ」
一通り目を通すと
「いいの?大事(おおごと)にならない?」
「雀はこうして生活を守らないと誰も守ってくれないんだ」
安西という雀が鶴になろうともがき苦しんで選んだのは正々堂々と正面から戦うのではなく、それとは相反する行動だった


それを聞き、マスメディアに席を置く梶原は今まで俺は、どんな役割を果たしてきたんだ問題が起こるかも知れない法案をちゃんと記事にとりあげ問題定義し正面から答えを導こうとしたのか?そんな政治家や官僚に意見したのか?それを、ちゃんと国民に伝えてきたのであろうかと深く反省した
「大丈夫、聞いた以上俺が何とかするから、約束する。お兄さんは今どこに?」
「職場だと思います」
「職場?それって」
「水道管理の仕事をしてるって言ってました」
「ありがとう。必ず約束は守るから」
心の中では政治家の公約とは違う俺は口に出した事は必ず守る。そんな事を思いながら電話を切り、連続的に指が携帯電話のボタンを押した
「木崎、鍵は水道管理局の安西だ」
「今、向かってる」
ツーと言えばカーの中とでもいおうか、そんな短い会話で話は通じた。鎖のごとくひとつづつが連なって連鎖していった起点に辿りつこうとしていた。

「小塚、これからもお前とは仲の良い友達になれそうだ」
別れの言葉を発し後(あと)にしようとすると小塚はトラブルはお断りといった感じに苦笑いを見せる
「じゃぁ」
A4の紙を握り締め足早に部屋を出ると、エレベーターの最下階のボタンを押し気持ちがはやる
「早く、早く来い」
エレベーターに乗り込むがスローモーションのように感じ、すぐ着くさま駆け出した先には、あるはずの車がない事に気付き、キョロキョロ周りを見渡して見るが車の姿がない。
「しまった」
地震情報の混乱に生じての車の盗難であった
ここまで見方していた運が梶原を見放したのか、そんなことどこ吹く風で携帯電話を片手に
「小塚、度々すまんがバイクか自転車持ってないか?」
心配だったのか部屋の窓から携帯電話を片手に地上を覗き込みながら話す
「今、梶原さんが立っている脇の駐輪場に黒のスクーターが止まっています。それが僕のバイクです。」
「頼む貸してくれ」
「いいですけど」
「時間がないんだ鍵をそこから放り投げてくれ」
マンションの頂上何十メートル先の小塚が放り投げた鍵が急降下し、目の前に差し出した梶原の手に何事もなかったかのようにスポッと収まった。奇跡としか思わざるを得ない状況に天はまだ梶原に微笑んでいた。心の中で小塚に感謝しながら地震研究所、メイド喫茶と情報を辿ってきた道を遡(さかのぼ)るように本郷の水道管理局へ向け、渋滞の車を横目に警察など気にする余裕もなく猛スピードで駆け抜けた。

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53 「連鎖」 十四 雀から鶴

十四 雀から鶴
大型の移動中継車だっただけに渋滞でより時間が掛かってしまった。

キッー、バンッ、バンッ中継車から降りるドア音が鳴り、木崎とテレビカメラやマイクを手にしたスタッフが水道管理局内部へ気合充分に走り出す。
大分(だいぶ)年月が経過しているのではないだろうかと思う古びたビルでワンフロアだけが皓(こう)皓(こう)と光を放っていた。
タッタッタッハァハァ階段を幾段も駆け上がり、また駆け上がり、走る勢いと同様ドアノブに手をかけバーンと勢いよくドアは壁にぶつかる勢いで開き、感情の思うがままに
「あ ん ざ い」
その部屋に居るかどうかも解らず凄い大きな声で叫んだ
壁面には東京都内の2万5千という水道配水官網が詳細に記され、
その内の2千227km、400パイの大型配水管の異常を知らせる警告ランプとけたたましい音がなり響き、時刻は2時51分を指し示し木崎の想定する時間を過ぎていた。実際の地震発生時間と5分の誤差が生(しょう)じ後(あと)4分と迫っていた。
パソコンで何かしらの作業をしていた安西は、木崎達の姿に気づき、慌てて別のドアから逃げ出すと屋上への階段を駆け上がっていく。それを見た木崎達はすぐさま後を追う
「安西、待て」

ビルの屋上には暗がりに光る満月と無数に輝きを放つ星
安西は無造作にドアを開けると躊躇(ちゅうちょ)なくビルの反対側へ駆け出した
数秒遅れで追いついた木崎が安西の背中を見るや
「安西、待てー、お前は何をしようとしてるんだ」
その声を聞いた安西はビルの中央付近で徐々に駆け足を緩め止まると、木崎と対面するようにゆっくり振り返る
するとビルが微かに揺れ始めた
「ふっはっはっはあー」
と笑い出し
「雀が鶴になる時が来たんだ、俺は真(まこと)が何であるかを伝えたい」
「何を言ってる?何をした安西」
「国家権力を使い国民生活を振り回す人間どもに情報という武器を盾に国民と同じ苦しみを体感し、そして国民には迫る時間をもって生(せい)を、命(いのち)を、暮(く)らしを、どう生きるべきなのか考えて欲しかった」
「それだけじゃないだろ、この揺れはなんだお前が仕組んだ事ではないのか」
「あー最後に全部説明してやろう俺はこの計画が頭に浮かんだ時、英知新聞社の藤巻というブログが目に止まり、そのブログにちょっとした細工をし情報の起点にした。その情報を拡散しようと数台のパソコンを駆使し2ちゃんねるに自作自演で掲載を考えていたが都合よくシナリオ通りの会話をしてくれる1960とかいう人間が偶然現れて計画以上に事が進んだよ。そして情報に信憑性を持たせる為に400パイという配水本管に球状で傘の様に羽を開く振動を与える水中モーターを何百個も仕込んだ。それが地面下の網の目のように拡がる配水本管の中で何度となく開閉を繰り返す事によって津波と同じような現象が生まれ配水管が地面の中で微妙に波打ち地面を揺らした。それが連鎖の総てだ」
「俺がテレビ放送を決断した地震もお前が仕組んだ事か」
「結果的にはそう言う事だな、俺はこれで声を発せずとも鶴になれたんだ」
そういうと安西は体を反転させ、またビルの淵へゆっくりと足を向け歩き出した
「何が鶴だ。お前のしていることは国民を愚弄する行為だ」
しかし、安西は聞く耳を持たずといった具合に一歩づつ確実に死の淵へ
「待て、安西、お前を頼りにする人間がいるんじゃぁないのか、命を無駄にするな」



梶原はというと白山通り途中にあった消防署に立ち寄り救命用の大きなマットレスを水道管理局の前に用意して貰えるよう頼み込み、ちょうど水道管理局に到着した所だった。腕時計に目をやり時間がない事を確認すると光を放つ部屋に一目散に駆け出し、階段を一心不乱に駆け上がった。その先の部屋には誰も居(お)らず照明が皓(こう)皓(こう)と灯り、警告音が鳴り響く異様な光景だった。すると揺れだしていた建物がさらに大きく揺れだす。梶原はすぐさまデスク上のパソコンを見付けるなり画面と対面しパスワードを打ち込んだ 2 2 2 7。情報で得た人為的地震→情報操作→安西これで梶原の頭の中では点が線に結ばれていたからこその結果のパスワードだった。しかし、夢の箱パソコンは梶原が打ち込んだ数字を無残にも拒否する、これで天も見放し万事休すかと思い目を閉じ考える。
ハッとゆみとの会話の雀という言葉が浮かんだ!これだ。
「これを目指していたんだろ安西、答えてくれ」
口ずさむと同時にT u r uと打ち込みエンターキーを押した
「頼む」
パソコンの画面には何の変化も見られずこれで本当に万事休すだと・・・

地震発生時間は既に過ぎ、大きく揺れる建物 グラッグラッ
悲惨な状況が脳裏に浮かび体から力が抜けた。そこへ天使が舞い降りたかのよう、まだ見ぬゆみの顔が鮮明に浮かんだ
「何で先に思い浮かばなかったんだ。今度こそ、今度こそ頼む」
心の叫びにも似ていた
手は a n g e l と打ち込みエンターキーを押す。するとパソコン画面は実際のゆみではないかと思える微笑みを浮かべるゆみの画像がフ ワ ッ ー と浮かび上がった
「ビンゴ!」
と口から零(こぼ)れる
すると装置の動作は徐々にではあるが静かに止まり警告音も鳴り止んだ。異常を知らせる残像と警告音、安堵感、怒涛のごとく押し寄せた感情の起伏


「安西」
安西は死の淵に立ち天を見上げ瞼を軽く閉じると、力なしにフ ワ ッ ー と前のめりに地上へ

「あ ん ざ い 」
木崎とスタッフは叫びながらすぐさま駆け寄りビルの下を覗き込んだ

車の渋滞と大勢の人が移動する横で、街の喧騒が一瞬、掻き消されスポットライトがあたったかのようにそこには大きな救命用のマットレスが置かれ、ほぼ中央に飛び降りた安西の小さく蹲る(うずくまる)姿が写り、小刻みに震える安西の目には涙が零(こぼ)れ魂の叫びをあげていた。そのマットレス正面脇に梶原が親指を付き立てスクープを取った時のような満面の笑みを浮かべながら、俺に任せておけば大丈夫と言っているかのようでもあった。この場においても梶原はギャグの乗りで「グーグーグー」と言い親指を突き立てていたが、木崎はOKサインの親指のポーズだと勘違いをし梶原に返すように「よし、やったぞ」と親指を突き立て同じポーズを取った。そこには満足気な二人が確かに存在した。

2時間の出来事があっという間に過ぎお祭りが終わった時のなんともいえない感覚が襲っていた。

そして、国民へ向けて3度目のテレビ放送がされた。



物事は単独で成立する事は、ごくわずかで鎖のごとくどこかで接点をみせる。人々は物事を単一的にみるのではなく幅広く見なければいけない場合も多々あるのだろう。


                    完


因みに佐山がニックネームとして使用した1960M9・5、これは1960年に起きたチリ地震でマグニチュード9・5と記録されている過去最大の地震と言われています。
安西がニックネームとして使用した2227とは東京都内の配水本管400パイの総長さ2千227キロメートルを表(あらわ)したものです。
A n g e lは天使、これは将来を担う赤ん坊や子供が天使だという意味を込めて使用しました。(安西が幼い時期の妹、ゆみと別れたという意味も込めて)
安西が終盤に語る言葉に雀が出て来ますが雀はことわざで「雀の千声、鶴の一声」「雀の涙」「雀の宴」など小さなもの、劣ったものの例えで表(ひょう)されています。それを使用したものです。
                     

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